禁煙支援

 神奈川県病院薬剤師会は、世界保健機関(WHO)が策定した世界条約「たばこ規制枠組み条約」が批准国のわが国でも確実に履行されることを期待するとともに、日本病院薬剤師会の「禁煙推進宣言」および神奈川県が推進している禁煙サポート事業の趣旨に基づき、病院薬剤師として積極的に禁煙支援を推進します。

日本病院薬剤師会の「禁煙推進宣言」

  1. 薬剤師の禁煙を推進する。
  2. 喫煙の健康に及ぼす悪影響について、正しい知識を国民に普及啓発する。
  3. 受動喫煙による健康被害から非喫煙者を守る。
  4. 禁煙希望者に対する禁煙の助言と支援をより一層充実させる。
  5. 保健医療専門職として禁煙推進活動に積極的に参加し、主導的に行動する。
  6. 病院・診療所における禁煙を推進する。
  7. 薬学生に対して喫煙と健康及び禁煙支援についての教育を行う。

神奈川県が推進している禁煙サポート事業

  1. タバコの健康影響についての正しい知識の普及
    タバコの健康影響や効果的な禁煙方法などに関する知識、情報の提供を行う。
  2. 禁煙教育の実施
    保健福祉事務所において、禁煙希望者等を対象に禁煙教育講演会や禁煙相談を実施する。
  3. 禁煙支援医療機関リストの情報提供
    ニコチン置換療法などを希望する県民に対して医師会と連携して、禁煙外来を行う医療機関のリストを作成し、広く情報提供する。

タバコ Q&A

タバコには依存性物質ニコチンが含まれています。タバコを吸うと、ニコチンは肺から血液中に入り直ぐ脳に到達します。脳に到達したニコチンは、脳にある「よい気持ちを感じるところ」を刺激します。すると、快感を生じさせる物質(ドーパミン)が出て、喫煙者は快感を味わいます。しかし、体内のニコチンは約2時間で半分に減ってしまうので、直ぐにニコチン切れの状態になり、イライラする、落ち着かないなどの「よくない気持ち」になります。これが離脱症状(禁断症状)です。そして、その離脱症状を解消するために、またタバコを吸い、直ぐにニコチン切れになり、また吸います。これを繰り返すうちにニコチン依存になり、タバコがやめられなくなるのです。
タバコを初めて吸った時に、ストレスが解消されることはありません。むしろ不味くて気分が悪くなる人が多いと思います。では、なぜ、タバコはストレス解消になると言われるのでしょうか。それはニコチン依存の状態になっているからです。タバコを吸って解消できるストレスは「ニコチン切れによるストレス」だけです。
人は日々、多くのストレスを感じています。ストレスには様々あり、ストレスの原因は一つではありません。仕事や家庭、社会や病気など、様々な原因によるストレスがあり、それぞれが増減して全体のストレスを形作っています。
タバコを吸った直後、「ニコチン切れのストレス」は解消されますが、仕事や家庭、社会や病気などのストレスは解消されません(図2)。喫煙者は、タバコなしではストレスが多くてタバコをやめられないと思い込んでいますが、タバコをやめて吸いたい気持ちがなくなれば、吸わない人と同じストレスに回復できます(図3)。禁煙に成功した人はタバコから解放されることによってストレスが低下し、精神的健康度も改善することがわかっています。
喫煙は肺がんのみならず、様々な病気を引き起こします。米国保健省は、タバコに関する最新の知見をまとめ、公衆衛生長官報告として定期的に発表しています。2014年の報告では、下線の疾患が新たに追加されました。

能動喫煙(自分のタバコ煙を吸う)と関連する病気
口腔咽頭がん、喉頭がん、食道がん、気道・気管支・肺がん、急性骨髄性白血病、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、腎臓・尿管がん、子宮がん、膀胱がん、大腸がん、脳卒中、失明、白内障、加齢黄斑変性妊娠中の喫煙による先天性口唇・口蓋裂、歯周病、大動脈瘤、若年成人期からの腹部大動脈の硬化、冠動脈疾患、肺炎、動脈硬化性末梢動脈疾患、慢性閉塞性肺疾患、結核、喘息、その他の呼吸器疾患、糖尿病、女性の生殖機能の低下、大腿骨近位部骨折、子宮外妊娠男性の性機能低下(勃起不全)関節リウマチ免疫機能への影響、健康状態全般の悪化

受動喫煙(他人のタバコ煙を吸う)と関連する病気
■子供:
中耳炎、呼吸器症状、肺機能の悪化、下部呼吸器疾患、乳幼児突然死症候群
■大人:
脳卒中、鼻の刺激症状、肺がん、冠動脈疾患、女性の生殖機能の低下(低出生体重)

喫煙が原因で1年間に死亡する人数は、世界では能動喫煙によって約 500 万人、受動喫煙によって約 60 万人と報告されています。日本人の年間死亡者は、能動喫煙によって約 13万人、受動喫煙によって約 1 万 5 千人(肺がん、虚血性心疾患、および脳卒中による死亡)と推計されています。
タバコに含まれるニコチンには依存性があり、タバコをやめるとニコチンが摂取できなくなるため、さまざまな不快症状(離脱症状)が現れ、禁煙を難しくしています。離脱症状は禁煙後2~3日後に最も強く現れ、5~7日後には弱くなります。この離脱症状を軽減するため、ガムやパッチ(貼り薬)に含有させたニコチンを体内に吸収させた後、体内に移行するニコチン量を徐々に減らして最終的に中止する治療が行われています。禁煙するための薬を「禁煙補助薬」と言います。

①ニコチンガム
ニコチンを口の粘膜から吸収することで、禁煙時の離脱症状を和らげます。ニコチンガムの使用量を徐々に減らします。薬局・薬店で処方箋なしで入手できます。

②ニコチンパッチ
皮膚に貼ることにより、ニコチンが徐々に体内に吸収され、離脱症状を和らげます。病院では健康保険が使えます。薬局・薬店では処方箋なしで入手できます。

③内服薬 (バレニクリン)
ニコチンを含まない飲む禁煙補助薬で、タバコを吸っても満足を感じにくくなる作用と禁煙時の離脱症状を軽くする作用があります。健康保険が使えます。

これらの禁煙補助薬を使用すると使用しない場合に比べ、禁煙の成功率が高くなります。ニコチンガムは1.4倍、ニコチンパッチは1.7倍、バレニクリンは2.3 倍高くなることが報告されています。
喫煙を単なる習慣や嗜好と考えるのではなく、「ニコチン依存症」という病気としてとらえ、必要な治療を行うのが禁煙治療です。禁煙外来を開設している病院やクリニックで、一定の条件を満たした喫煙者であれば誰でも保険診療により禁煙治療が受けられます。タバコがやめられないニコチン依存症は治療すべき疾患と考えられています。禁煙治療を健康保険で行うことができる医療機関は、日本禁煙学会のホームページに掲載されています。
禁煙治療の流れの一例を示します。

●初回
治療法の説明、ニコチン依存度、喫煙の状況、禁煙の関心度などを問診。吐き出す息の一酸化炭素濃度の測定、禁煙開始日の決定と「禁煙誓約書」へのサイン、次回診察日の決定、禁煙補助薬の処方など。

●2回目
初回から2週目に再診。喫煙状況の問診。吐き出す息の一酸化炭素濃度の測定、禁煙補助薬の追加処方など。

●3回目、4回目
4週目、8週目の再診。吐き出す息の一酸化炭素濃度の測定、離脱症状の確認、対処法など説明。

●5回目
12週目の再診(最終回)。禁煙に成功していれば、そのまま禁煙を継続するためのコツを覚える。

※ 健康保険で認められている通院回数は、初診を含めて計5回、期間は約3か月です。
禁煙治療は健康保険を使って受けることができます。禁煙外来は約3か月間、計5回の通院治療で終了することが一般的となっています。禁煙外来で保険適用となる場合、使用する禁煙補助薬にもよりますが、自己負担が3割の人は約3か月の治療スケジュールで、13,000円~20,000円程度です。
※ 2020年4月に改定された診療/調剤報酬点数に基づいて算出
タバコ1箱を540円とし1日1箱吸っているタバコをやめるとタバコ代が不要になり、お金が貯まります。貯まったお金を自分の趣味や好きなことに使うことができます。そして、何よりも「健康」が手に入ります。「お金」が貯まって「健康」が手に入る、一石二鳥です。

禁煙後の期間 貯まる金額
1か月 約16000円
3か月 約49000円
6か月 約97000円
1年 約19万円
5年 約97万円
10年 約190万円
20年 約390万円
30年 約580万円
喫煙者は非喫煙者よりもBMI(*)が低く、禁煙者の60~80%が禁煙開始後1~6年の間に2~4kg体重が増加し、約13%は体重が10kg以上増加するとされています。しかし、体重が増加しても、禁煙による健康改善効果のほうがはるかに大きいことがわかっています。軽度の体重増加は、通常は一過性であり過度に不安になる必要はありません。体重増加を気にして、あるいは言い訳にして喫煙を続けることは好ましいことではありません。
禁煙開始時は離脱症状を乗り越えることに専念し、体重コントロールは禁煙が安定した禁煙後6~8週以降に開始するのがよいでしょう。

(*) BMI・・・肥満度を表す指標として国際的に用いられている体格指数で、[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で求められます。
タバコをやめると、やめた瞬間からタバコの悪影響がなくなり、時間ごとに体に良い変化が現れてきます。良い変化が現れるのに長時間かかる場合もありますが、吸い続けていれば体への悪影響は続いていきます。今、すぐにタバコをやめることが大事です。

禁煙してからの時間 体の変化
20分 血圧が正常になる
8時間 血液中の一酸化炭素濃度が正常になる
24時間 心筋梗塞のリスクが減る
2週間~3か月 呼吸がしやすくなる
1~9か月 咳が減り、肺機能がよくなる
1年 心疾患のリスクが1/2になる
5年 脳卒中のリスクが非喫煙者と同じになる
10年 肺癌による死亡が減る。口腔癌、咽頭癌、食道癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌の発症が減る
15年 心血管のリスクが非喫煙者と同じになる

https://www.canada.ca/en/health-canada/services/smoking-tobacco/quit-smoking/benefits-quitting.html

加熱式タバコは、従来の紙巻タバコのようにタバコ葉に直接火をつけるのではなく、タバコ葉に熱を加えてニコチンなどを含んだエアロゾル(液体の微粒子)を発生させる方式のタバコです。従来の紙巻タバコと区別するために、加熱式タバコと電子タバコを「新型タバコ」と呼ぶこともあります。電子タバコは、海外ではニコチン入りの液体を熱してニコチンを含むエアロゾル(蒸気の微粒子)を吸います。日本では、ニコチン入りの液体は法律で許可されていないため販売されていません。 加熱式タバコは、葉タバコを使用するため「たばこ事業法」の規制対象となり、未成年は購入できず、タバコ税も課税されます。
紙巻タバコは使用されて何十年も経ってから有害性がはっきりと分かってきました。しかし、加熱式タバコは販売されてから年月が経っておらず、長期間の追跡調査結果がないため、有害性が少ないとは言えません。「加熱式タバコは9つの有害成分が90%削減された」とタバコ会社は宣伝していますが、体への悪影響が90%少なくなったということではありません。いくつもの医学論文で、加熱式タバコの有害性が報告され始めています。

加熱式タバコの煙が含む有害成分量
有害成分 有害成分 紙巻タバコと比較した 含有量
ホルムアルデヒド 発がん性 74%
ベンズアルデヒド 毒性、刺激性 50%
アクロレイン 毒性、刺激性 50%
ニコチン 依存性、血管収縮 84%
JAMA Intern Med. 177: 1050-52. 2017
加熱式タバコの煙に含まれるニコチン量は紙巻タバコに比べ、60~80%であるという報告があります。また、加熱式タバコを吸った時の血中ニコチン濃度を紙巻タバコと比べると、約80%という報告や約100%(ほぼ同じ)であるという報告があります。加熱式タバコの煙を吸わせたラットのニコチン血中濃度は、通常の紙巻タバコの煙を吸わせたラットと比べ、ニコチン血中濃度が4倍も高かったという報告があります。これらのことから、加熱式タバコに含まれるニコチンは紙巻タバコと同じ程度またはそれ以上体内に入ることが考えられます。つまり、加熱式タバコのニコチン依存の強さは変わらず、紙巻タバコをやめるためのステップとして加熱式タバコは役立たないと考えられます。

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